言うお金持

そう思いつつふと見たテーブルの上の、わたしの携帯がその上に置いてあったであろう所に一枚の紙切れが置き手紙のようにあることにわたしはすぐに気づく。
するとそこにはユナの手書きと思われるメッセージが、ボールペンで殴り書きのように書かれていた。
と、その内容もいたってシンプル。

『今日まで本当にありがとう???、ナオキ。
お世話になりました。
ユナ』

その文面はどう見てもわかり易いお別れのメッセージのようにしか見えなかったわけで。
って、でもまたこんな状況でいきなり何故?
なんて思いつつ、わたしはしばらく放心したように布団の上でその手紙をじっと見つめていたのだが???、そんなことをしていてもらちがあかないことに気づき、わたしは荷物をまとめチェックアウトの準備に取りかかった。
ユナの荷物は何ひとつそこには残されておらず、彼女の着ていた浴衣はもとあったのと同じようにきちんと折り畳まれ床の間の上に置かれていた。

フロントに下りて行くと、カミカワさんが、
ああ、ホンジョウ。
なんか彼女、先帰ったみたいだな?

早朝に出て行くのを俺、チラッと見かけたんだけど???、何かあったのか?」
とわたしに尋ね、
え?
いや」
とわたしはデイパックの中の財布を探すかのようにしてカミカワさんから視線をそらす。
なんかちょっと???怪しい黒塗りのメルセデスが迎えに来てたみたいだけど」
そうですか」
と気乗りしないような態度でそう答えるわたしに、
オマエ、大丈夫なのか?」
とカミカワさんは心配そうな表情でこのわたしを見た。

ええ。
このたびはどうも???、お世話になりました。
また、近いうちに連絡しますよ」
そう言ってわたしは会計を済ますとすぐにその宿を後にする。

ユナのことは???おそらく心配はいらない、と言うことなのだろう。

あの手紙を見る限り、自分の意志で帰ったようにも思えたし。
大方彼女の???あのジンナイって言うお金持ちの親父あたりがわざわざここまで迎えをよこした?なんてことなんだろう。
それにまあおそらく???と言うか、あの世界へわたしと一緒に行くことで彼女の役割り?みたいなものはそれなりに果たされたような気もするし。
なんてその辺のところは、わたしとしてもこの段階では全くと言っていいほど定かではなかったのだが。

そんなことよりも今、このわたしは次に何をしなければいけないのか?

少なくとも何か???、すぐにでも行動を起こさなくてはならない。
そんな強迫観念にわたしはせき立てられていた。
そうヒカルに言われ、わたしはこの海岸に以前来たことがあるのを思い出していた。
この記憶はおそらく???、そうか、多分この世界でのわたしの記憶にちがいない。

この海岸には確か2年前の同じ日、確か同じような時間に。

そう、確かあの日も春分の日の夕暮れ時だった。
わたしはこの久高島のカブールと言う浜辺に来たのだ 。
そしてあの時???、とわたしが思った瞬間だった、わたしの目の前の砂浜の表面にもうひとりの人間の影が揺れるようにしながら伸びてくるのがわかった。

ナオキ?
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